大判例

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東京地方裁判所 昭和28年(行)27号 判決

原告 ジヨージ・テイルソン・ウヰード

被告 国

一、主  文

原告が日本国籍を有せざることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、請求の原因として、

「原告は明治四十二年六月六日東京において米国人たる父デービツド・テイルソン・ウヰードと日本人たる母田井千代の間に出生し、日本国籍を有せざる外国人として滞日して居た。その後昭和十七年十月二日原告名義で原告の日本国への帰化申請書が提出せられ、これに対し昭和十八年三月五日右申請に対する許可があり、横浜市中区本牧町二丁目三百三十六番地に原告が一家創立の旨戸籍簿に記載されたのである。

原告は大正十二年一旦離日し、昭和十二年七月帰日してからは滞在許可の願出をなす毎に強く日本国籍の取得を要求され居たが昭和十五年三月原告の父DTウヰードの死亡後国際情勢の推移に伴い、警察の原告に対する監視は一層きびしくなり、殊に昭和十六年戦争の勃発以後においては原告は自宅において管轄警察署の監視下におかれる様になり、原告に対し日本国籍取得を強要する圧力は益々増大して来たが、原告は日本国籍取得の意思がなかつたので、その圧力を避けて横浜市に転居した。ところが、横浜の山手警察はなお原告に日本国籍取得方を強要して来たのであるが、昭和十七年十月原告は同警察署に呼出され、日本文の書面に署名することを要求されるに至つた。原告は日本文を充分に理解することができないものであり、説明された文書内容も理解できなかつたが、これに署名することを拒むにおいては非常手段に訴えられる虞があつたので、そのまま帰化の意思もなくこれに署名したのであるが、その文書が、右原告名義の帰化申請書なのであつて、右帰化申請は全く原告の意思に基かざる無効のものである。

仮に右申請が一応原告の意思によつてなされたものであるとしても、当時は前述の如く原告に対し諸種の圧力が加えられて居たのであり、更に原告が右申請書に署名するに至つたのは、これを拒むにおいては拘禁、食糧の配給停止等の措置を採る等と言われ、原告夫婦の生活の方途の失われることを恐れ、やむを得ずに署名したものであつて、右申請は全く意思の自由を欠く状況の下になさしめられたもので無効のものである。

従つて右無効なる申請を基礎としてなされた右帰化の許可も当然に無効なるものであつて、原告は日本国籍を有せざるものであるからその確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べた(証拠省略)。

被告指定代理人は請求棄却の判決を求め、

「原告主張事実中、原告がその主張の日に、米国人である父デービツト・テイルソン・ウヰードと日本人である母田井千代との間に出生したものであること、昭和十七年十月二日原告名義で原告の帰化申請がなされ、昭和十八年三月五日右申請に対する許可があり、原告主張の通りに戸籍簿の記載がなされたことは認めるが、その余の事実は争う。

右帰化申請のなされた昭和十七年十月当時は丁度今次太平洋戦争中であるから、米国人を父とする無国籍人であつた原告が日本に居住する以上、公私に亘り生活上の制約を受け、警察取締の対象となつたことはあつたであろう。然しながら当時内務当局は帰化の許否決定の基準として、国籍法所定の要件を具備するものであることは勿論、帰化の動機が純正で真に皇化に浴し日本人に同化しようとする意思に出たものであり、帰化によつて国家の法益を害し、取締制限を免れ、自己の職業等に利用する目的に出づるものではなく、本人の経歴、交友関係等から判断し我国の警察取締、労働、社会政策その他国策上の見地から見て支障なきものと認められること等を考慮すべきこととして居たのであるから、警察当局が原告に対し非常手段に訴えると脅迫して強いて帰化申請の手続を採らせるということは考えられないことである。他方右帰化申請は、原告の母、妹、内妻等が日本国籍を有するのに、原告のみ日本国籍を有しないことからする不都合、不幸を理由とし、その申請書には前述の内務省当局の取扱基準に合致する様な諸種の証明書が添附されて居ることを考慮すれば、右申請は原告が自己の意思に基いて提出したものであることは明らかであり、原告の主張は理由なきものと言わざるを得ない。」と述べた(証拠省略)。

三、理  由

原告が米国人を父として出生したもので日本国籍を有しなかつたが、昭和十七年十月二日原告名義で原告の帰化申請書が提出せられ、昭和十八年三月五日これに対する許可があつたことは当事者間に争がない。そこで右帰化申請が原告の意思に基いてなされたものであるか否かの点について検討する。乙第六号証は、その作成名義人とされて居る原告の署名が真正であることは当事者間に争がないのであるから、一応真正に成立したものとの推定を受ける訳であるが、原告本人訊問の結果によれば、原告はかねて警察署員より日本国籍を取得する様に強く要求されて居たが、昭和十七年十月横浜山手警察署に呼出されて出頭した際署員より日本文の書類を示され、署名を求められ、署名を拒むにおいては食糧の配給を停止するとか留置する等と脅迫されたので、日本語の理解できなかつた原告はその書類が何であるかよくわからなかつたが己むを得ずその書類に署名したが、その書類が乙第六号証の帰化申請書であり、当時原告としては日本国籍を取得する意思は全くなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、右事実よりすれば乙第六号証は原告の意思に基かずして作成せられたものであることは明らかであるから、乙第六号証は証拠として採用することはできず、その他この点の被告の主張を認めるに足る証拠はなく、右認定事実よりすれば乙第六号証の帰化申請書を以てなされた帰化申請は原告の意思に基かずになされたものであることは明らかであるから、右帰化申請は無効のものと言わなければならず、これを前提としてなされた右帰化の許可も亦当然無効であつて、これによつて原告が日本国籍を取得する謂れはない。然る以上原告は日本国籍を有せざるものであると認められるから原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 桑原正憲 山田尚)

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